「まずダッシュボードを開いて」と言いたいところですが、ダッシュボードの手前——会計データそのものが手入力で止まっている施設が、実はまだ非常に多いのが現状です。

私がレベニューマネジメントのコンサルティングで月末に現地ホテルへ2泊してRMレビューを行う際、最初に確認するのは月次P/L(損益計算書)です。ところが「月次決算がまだ締まっていません」と言われるケースが3割ほどあります。数字で見ると、その原因の大半はPMSと会計ソフトの連携不備——つまり、宿泊売上・飲食売上・宴会売上といった複数の収益データを手作業で会計ソフトに転記しているために時間がかかっているのです。

宿泊業の経理には、一般企業にはない特有の複雑さがあります。宿泊税・入湯税・サービス料といった業界固有の税区分、OTA経由売上の手数料自動仕訳、インボイス制度への対応、そして宿泊・飲食・宴会・売店という複数プロフィットセンターの一元管理。汎用の会計ソフトだけでは、これらの要件を満たすのは困難です。

本記事では、ホテル・旅館の経理業務に特化した視点で会計ソフト8製品を比較します。PMS/POSとの自動連携、業界特有の仕訳対応、規模別の最適解を整理し、月次決算の所要日数を5営業日→1.5日に短縮するための選定ガイドをお届けします。

ホテル・旅館の会計が「普通の会計」と違う5つの理由

まず、なぜ汎用会計ソフトだけではホテル・旅館の経理が回らないのかを整理します。

理由1:複数プロフィットセンターの収益管理

ホテル・旅館は、宿泊・飲食(レストラン)・宴会(バンケット)・売店・スパなど、複数の収益部門を抱えています。部門ごとの損益を正確に把握するためには、売上・原価・経費をプロフィットセンター別に仕訳する必要があります。

私がTRevPAR(総合収益指標)の最大化を支援する際、まず確認するのが部門別P/Lの精度です。部門間の売上按分や共通経費の配賦ルールが曖昧だと、どの部門が利益を生んでいるのかすら正確に把握できません。

理由2:宿泊税・入湯税・サービス料の税区分

2026年現在、宿泊税を導入している自治体は東京都・大阪府・京都市・福岡市・北海道(倶知安町)など拡大傾向にあり、税率や課税基準も自治体ごとに異なります。さらに温泉旅館では入湯税(1人1日150円が標準、自治体により異なる)の徴収・納付義務があります。

これらは消費税とは別の「預り金」として処理する必要があり、一般的な会計ソフトの消費税設定では対応しきれないケースが多いのです。

税区分概要会計処理上のポイント
宿泊税自治体ごとに税率・課税基準が異なる預り金勘定で管理、自治体別に集計・納付
入湯税鉱泉浴場の入湯客に課税(標準150円/人日)預り金勘定、日帰り入浴も対象の場合あり
サービス料宿泊料金の10〜15%を加算売上の一部として計上、消費税の課税対象
消費税(軽減税率)飲食料品8%と宿泊10%の混在テイクアウト・ルームサービスで税率が変わる

理由3:OTA手数料の自動仕訳

OTA(楽天トラベル、じゃらん、Booking.com等)経由の予約は、売上からOTA手数料が差し引かれた金額が入金されます。この手数料率はOTAごとに異なり(8〜15%程度)、さらにプラン別のプロモーション手数料が加算されるケースもあります。

正確な仕訳としては、①売上全額を計上、②OTA手数料を販売手数料として費用計上、③差額を売掛金として管理——という3段階の処理が必要です。これを手作業で行うと、OTA別・プラン別の手数料率の確認だけで膨大な時間がかかります。

実績として、私が支援した28室温泉旅館では、OTA手数料の仕訳ミスによる差異が月間3〜5件発生しており、その照合作業だけで月8時間を費やしていました。会計ソフトとPMSの連携でこれがゼロになった事例もあります。

理由4:インボイス制度(適格請求書等保存方式)への対応

2023年10月に開始されたインボイス制度により、宿泊施設は適格請求書発行事業者としてインボイスの発行義務を負っています。法人利用の多いビジネスホテルでは、宿泊費の領収書をインボイス形式で発行する頻度が高く、以下の要件を満たす必要があります。

  • 登録番号の記載
  • 税率ごと(10%・8%)の消費税額の明記
  • 適用税率の区分記載

会計ソフト側でもインボイスの保存・管理、仕入税額控除の正確な計算が求められます。

理由5:PMS・POSとのデータ連携

ホテルの基幹システムはPMS(宿泊管理システム)であり、売上データの源泉はPMSとPOS(レストラン・売店)に分散しています。これらのシステムから会計ソフトへデータを自動連携できるかどうかが、経理業務の工数を決定的に左右します。

さらに、サイトコントローラーを経由したOTA売上データの取り込みも重要です。PMS→サイトコントローラー→会計ソフトのデータフローが自動化されていれば、日次の売上仕訳が人手を介さずに完了します。

ホテル向け会計ソフトの選定基準7項目

上記の業界特性を踏まえ、ホテル・旅館が会計ソフトを選ぶ際にチェックすべき7つの基準を整理します。

選定基準チェックポイント重要度
①PMS/POS連携自社PMSとAPI連携またはCSV取込が可能か★★★
②宿泊税・入湯税の自動計算自治体別の税率設定、預り金の自動仕訳に対応しているか★★★
③OTA手数料の自動仕訳OTA別・プラン別の手数料を自動で費用計上できるか★★★
④インボイス制度対応適格請求書の発行・保存・仕入税額控除の自動計算★★★
⑤部門別損益管理プロフィットセンター別のP/L作成が可能か★★☆
⑥電子帳簿保存法対応電子取引データの保存要件(タイムスタンプ・検索要件)に対応★★☆
⑦税理士・会計事務所との共有クラウド上でリアルタイムにデータ共有できるか★★☆

ホテル・旅館向け会計ソフト8選を徹底比較

ここからは、上記の選定基準に基づいて8製品を比較します。宿泊業特化型3製品と汎用型(宿泊業対応可能)5製品に分けて整理します。

【宿泊業特化型】業界専用の会計・管理会計ソフト

1. スマレジ for ホテル × スマレジ会計連携

項目内容
提供元株式会社スマレジ
月額費用POS:0円〜15,400円/会計連携:freee・マネーフォワード対応
対象規模小〜中規模(10〜80室)
PMS連携API連携対応(主要PMS各社)
特徴POS売上データを会計ソフトへ自動連携。飲食・売店の売上をリアルタイムに会計へ反映
インボイス対応○(適格請求書の自動発行対応)

飲食部門のPOS機能と会計連携を一体化できるのが強みです。レストラン・売店を併設するホテル・旅館で、POS売上データの手入力を解消したい場合に有効です。

2. GLOVIA きらら 会計(富士通)

項目内容
提供元富士通Japan株式会社
月額費用要問合せ(月額3万円〜が目安)
対象規模中〜大規模(50〜300室)
PMS連携GLOVIA smart ホテルとの統合連携
特徴同社PMSとの完全統合。宿泊・宴会・飲食の部門別会計を自動化。管理会計レポートが充実
インボイス対応

富士通のPMS「GLOVIA smart ホテル」を利用している施設にとっては、同一ベンダーの会計ソフトとの統合が最もスムーズです。部門別P/Lの自動生成、予算実績対比レポートなど、管理会計の機能が充実しています。

3. NECホテルシステム × EXPLANNER会計

項目内容
提供元NECソリューションイノベータ株式会社
月額費用要問合せ(導入規模により個別見積り)
対象規模大規模(100室以上)・チェーン展開
PMS連携NECホテルPMSとの統合連携
特徴チェーン全体の連結会計に対応。施設別・部門別の損益管理、グループ内取引の自動消去
インボイス対応

複数施設を運営するチェーンホテルや、連結決算が必要なホテルグループに適しています。施設ごとの業績比較やベンチマーク分析など、チェーンマネジメントに必要な管理会計機能を備えています。

【汎用型】宿泊業でも活用できるクラウド会計ソフト

4. freee会計

項目内容
提供元freee株式会社
月額費用2,680円〜47,760円(プランにより異なる)
対象規模小〜中規模(〜80室)、民泊
PMS連携API連携(一部PMS対応)、CSV取込
宿泊税・入湯税カスタム税区分で設定可能(手動設定が必要)
OTA手数料仕訳自動仕訳ルールで対応可能
インボイス対応○(適格請求書の発行・保存・仕入税額控除に対応)
電子帳簿保存法○(電子取引データの保存要件に対応)
特徴銀行口座・クレジットカードの自動取込、AIによる勘定科目推定。UIがシンプルで経理未経験者でも使いやすい

小規模ホテルや民泊事業者にとって、最もコストパフォーマンスが高い選択肢です。銀行口座やクレジットカードの取引データを自動取込し、AIが勘定科目を推定するため、経理の専門知識がなくても運用できます。ただし、宿泊税・入湯税の自動計算は標準機能にないため、カスタム設定が必要です。

5. マネーフォワード クラウド会計

項目内容
提供元株式会社マネーフォワード
月額費用3,278円〜65,780円(プランにより異なる)
対象規模小〜中規模(〜100室)
PMS連携API連携(一部PMS対応)、CSV取込
宿泊税・入湯税カスタム税区分で設定可能(手動設定が必要)
OTA手数料仕訳自動仕訳ルールで対応可能
インボイス対応○(適格請求書の発行・保存・仕入税額控除に対応)
電子帳簿保存法
特徴給与・勤怠・請求書などのバックオフィス機能と一元管理。税理士との共有機能が充実

マネーフォワードの強みは、会計だけでなく給与計算・勤怠管理・請求書管理・経費精算といったバックオフィス機能をワンプラットフォームで統合できる点です。経理担当者が1〜2名の中小ホテルにとって、複数システムを横断する手間を大幅に削減できます。

6. 弥生会計オンライン

項目内容
提供元弥生株式会社
月額費用1,330円〜2,750円(年間プラン換算)
対象規模小規模(〜30室)、民泊
PMS連携CSV取込(API連携は限定的)
宿泊税・入湯税カスタム税区分で対応可能
OTA手数料仕訳仕訳テンプレートで対応
インボイス対応
電子帳簿保存法
特徴国内シェアNo.1の実績。税理士対応率が高く、確定申告・法人決算のサポートが充実。月額費用が最も安い

コスト重視の小規模旅館・民泊事業者にとって、月額1,330円から使える弥生会計は有力な選択肢です。国内の税理士・会計事務所の対応率が最も高いため、顧問税理士とのデータ共有がスムーズな点も見逃せません。

7. 勘定奉行クラウド

項目内容
提供元株式会社オービックビジネスコンサルタント(OBC)
月額費用7,750円〜(iEシステム、年額換算)
対象規模中〜大規模(50〜300室)
PMS連携API連携(主要PMSメーカーとのパートナーシップ)
宿泊税・入湯税自由な税区分設定で対応
OTA手数料仕訳自動仕訳パターンで対応
インボイス対応○(請求書発行・受領・仕入税額控除の一元管理)
電子帳簿保存法○(JIIMA認証取得)
特徴内部統制・監査対応が充実。部門別管理会計、予算実績対比、経営分析レポートが標準装備

中規模以上のホテルで、内部統制や監査対応が必要な場合に最適です。承認ワークフロー、仕訳の承認履歴管理、監査証跡の自動記録など、上場企業の子会社やファンド所有のホテルにも対応できるガバナンス機能を備えています。

8. PCA会計クラウド

項目内容
提供元ピー・シー・エー株式会社
月額費用13,860円〜(利用人数により異なる)
対象規模中規模(30〜150室)
PMS連携API連携・CSV取込対応
宿泊税・入湯税自由な税区分設定で対応
OTA手数料仕訳自動仕訳機能で対応可能
インボイス対応
電子帳簿保存法
特徴柔軟な部門・プロジェクト管理。給与・販売管理との連携で基幹業務を統合。手厚いサポート体制

PCA会計は、部門管理の柔軟性が高く、宿泊・飲食・宴会・売店といった複数部門の損益を細かく管理できます。PCAの給与・販売管理システムと組み合わせることで、基幹業務の統合管理も可能です。

8製品の比較一覧表

製品名月額目安対象規模PMS連携宿泊税対応OTA手数料仕訳インボイス部門別管理
スマレジ連携0〜15,400円小〜中
GLOVIA きらら約3万円〜中〜大
NEC EXPLANNER個別見積大・チェーン
freee会計2,680〜47,760円小〜中
マネーフォワード3,278〜65,780円小〜中
弥生会計1,330〜2,750円小規模
勘定奉行7,750円〜中〜大
PCA会計13,860円〜中規模

凡例:◎=標準機能で対応 ○=設定・カスタマイズで対応 △=限定的または手動対応

規模別・おすすめの会計ソフト選定パターン

施設の規模と業態に応じた最適な選定パターンを、実務経験に基づいて整理します。

パターン1:小規模旅館・民泊(〜30室)

おすすめ:freee会計 または 弥生会計オンライン

  • 月額コスト:1,330〜5,000円
  • 経理担当者:兼任1名(オーナー自身のケースが多い)
  • 導入の決め手:コストの安さ、操作のシンプルさ、確定申告対応

小規模施設では、会計ソフトに月数万円を投じる余裕がないケースがほとんどです。freeeやの弥生のエントリープランであれば、月額2,000円前後で銀行口座自動取込・インボイス対応・確定申告書類の自動生成まで対応できます。宿泊税や入湯税の仕訳は手動設定になりますが、取引量が少ない小規模施設であれば実務上の負担は大きくありません。

パターン2:中規模ホテル・旅館(30〜100室)

おすすめ:マネーフォワード クラウド会計 または 勘定奉行クラウド

  • 月額コスト:5,000〜30,000円
  • 経理担当者:専任1〜2名
  • 導入の決め手:PMS連携、部門別損益管理、バックオフィス統合

このゾーンが最も選定に悩む規模帯です。数字で見ると、30〜100室規模のホテルでは月間の仕訳件数が500〜2,000件に達し、手入力では限界が来ます。PMSとの自動連携が必須であり、かつ宿泊・飲食・宴会の部門別P/Lを正確に出す必要があります。

マネーフォワードは給与・勤怠・経費精算との統合が強く、勘定奉行は内部統制・監査対応に強い——という棲み分けです。

パターン3:大規模ホテル・チェーン(100室以上)

おすすめ:GLOVIA きらら × GLOVIA smart ホテル または NEC EXPLANNER

  • 月額コスト:3万円〜(施設規模により異なる)
  • 経理担当者:専任3〜5名以上
  • 導入の決め手:PMS完全統合、連結会計、チェーン横断の業績管理

100室以上のホテルや複数施設を展開するチェーンでは、PMSと会計ソフトの完全統合が投資対効果を大きく左右します。同一ベンダーのPMSと会計ソフトを組み合わせることで、データ連携の設定工数がゼロになり、サポート窓口も一本化できます。

PMS連携の具体的な仕組みと効果

会計ソフト選定で最も重視すべき「PMS連携」について、具体的な仕組みと効果を深掘りします。

連携方式の3パターン

連携方式仕組みリアルタイム性設定工数適合する規模
API連携PMSと会計ソフトがAPIで直接データ交換リアルタイム〜日次低〜中全規模
CSV取込PMSからCSVを出力し、会計ソフトに手動取込手動(日次〜週次)小規模
統合型同一ベンダーのPMSと会計ソフトが内部連携リアルタイムほぼゼロ中〜大規模

PMS連携で自動化できる仕訳パターン

PMS連携が正しく設定されると、以下の仕訳が自動化されます。

取引内容借方貸方自動化のポイント
宿泊売上(現金)現金宿泊売上PMSのチェックアウトデータから自動起票
宿泊売上(OTA)売掛金(OTA名)宿泊売上OTA別の売掛金管理を自動化
OTA手数料販売手数料売掛金(OTA名)手数料率の自動適用
宿泊税預り現金/売掛金預り金(宿泊税)自治体別税率の自動計算
入湯税預り現金/売掛金預り金(入湯税)入浴人数×税額の自動計算
飲食売上現金/売掛金飲食売上POSデータから部門別に自動起票

これらの自動仕訳により、日次の経理作業は「仕訳の入力」から「仕訳のチェック」に変わります。実績として、私が支援した42室ビジネスホテルでは、PMS連携の設定後に日次の経理作業が2時間→30分に短縮されました。

導入事例:42室ビジネスホテルの会計DX

ここで、私がコンサルティングで関わった具体的な事例を紹介します。

導入前の課題

地方都市の42室ビジネスホテルでは、以下の状況でした。

  • 会計ソフト:インストール型の弥生会計(デスクトップ版)
  • PMS連携:なし(すべて手入力)
  • 月次決算の所要日数:7〜8営業日
  • 経理担当:兼任1名(フロントスタッフが兼務)
  • OTA手数料の仕訳:月末にまとめて手計算
  • 税理士との共有:USBメモリでデータを渡す

月末になると経理作業にフロントスタッフが取られ、チェックイン対応が手薄になるという悪循環が生じていました。

導入した会計ソフトと設定

マネーフォワード クラウド会計を導入し、以下の設定を行いました。

  1. PMS連携:日次の宿泊売上データをCSVで自動取込(将来的にAPI連携へ移行予定)
  2. OTA別自動仕訳ルール:楽天トラベル(手数料10%)、じゃらん(手数料8%)、Booking.com(手数料12%)の仕訳パターンを登録
  3. 銀行口座自動取込:法人口座・クレジットカードの取引データを毎日自動取込
  4. 税理士共有:クラウド上でリアルタイムにデータ共有

導入後の効果

指標導入前導入後改善幅
月次決算の所要日数7〜8営業日2営業日▲5〜6営業日
日次の経理作業時間2時間30分▲75%
OTA手数料の仕訳ミス月3〜5件月0件ゼロに
月間の経理工数約60時間約18時間▲42時間/月
年間の経理工数削減▲504時間/年

年間504時間の削減は、時給1,200円換算で約60万円の人件費削減に相当します。マネーフォワードの月額費用(約5,000円×12ヶ月=6万円)を差し引いても、年間54万円のコスト削減です。投資回収期間は実質初月でした。

さらに大きかったのは、月次決算の早期化により収益改善の打ち手を月初に議論できるようになった点です。これまで月次P/Lが出るのが翌月10日だったため、改善アクションが常に後手に回っていました。決算が翌月2日に出るようになり、RMレビューのサイクルが1週間前倒しできたのは、数字以上の効果でした。

会計ソフト導入・移行の5ステップ

会計ソフトの導入・移行を失敗なく進めるための手順を整理します。

ステップ1:現状の業務フローと課題の棚卸し(1〜2週間)

  • 現在の仕訳件数、月次決算の所要日数、手作業の割合を数値化
  • PMS・POSからのデータ転記にかかっている工数を計測
  • 税理士・会計事務所との現在のデータ共有方法を確認

ステップ2:要件定義と製品選定(2〜3週間)

  • 前述の選定基準7項目で必須/あれば良い/不要を整理
  • 現在のPMSとの連携可否を各ベンダーに確認
  • 2〜3製品に絞り込み、無料トライアルまたはデモで操作感を確認
  • 顧問税理士に対応状況を確認(特に弥生→クラウド移行の場合)

ステップ3:初期設定と並行運用(3〜4週間)

  • 勘定科目の設定(宿泊業特有の科目を追加)
  • OTA別・部門別の自動仕訳ルールを設定
  • 宿泊税・入湯税の税区分を設定
  • 既存の会計ソフトと並行運用し、数値の一致を確認

ステップ4:本番移行とスタッフ研修(1〜2週間)

  • 並行運用期間の数値一致を確認した上で本番切替
  • 経理担当者・管理者向けの操作研修を実施
  • 日次・月次の経理作業マニュアルを整備

ステップ5:効果測定と継続改善(導入後1ヶ月〜)

  • 月次決算の所要日数、手入力の残存件数、仕訳エラー率をKPIとして追跡
  • 自動仕訳ルールの精度を月次でレビューし、例外パターンを追加
  • 四半期ごとにPMS連携の拡張(CSV→API移行等)を検討

私の経験では、並行運用期間を最低2週間は設けることを強くお勧めします。特に月末をまたぐ並行運用が理想で、月次決算の数値が旧システムと一致することを確認してから本番移行すると安心です。

会計ソフト×RPAでさらなる自動化を実現する

会計ソフトの導入は経理DXの第一歩ですが、さらに踏み込んでRPA(業務自動化ロボット)と組み合わせることで、バックオフィス全体の自動化が実現します。

会計ソフト+RPAの自動化シナリオ

シナリオ自動化の内容削減効果
請求書処理AI-OCRで紙の請求書を読み取り→勘定科目を自動推定→会計ソフトに自動入力月20〜40時間
OTA入金消込OTAからの入金データと売掛金を自動照合→消込処理を自動実行月10〜20時間
月次帳票自動生成会計ソフトからデータ抽出→部門別P/L・KPIダッシュボードを自動生成月8〜15時間
経費精算領収書のOCR読取→経費申請の自動起票→承認後に会計ソフトへ自動連携月5〜10時間

会計ソフトの導入で「手入力の削減」を実現し、RPAの追加で「判断・照合・転記の自動化」を実現する——この2段階のアプローチが、バックオフィスDXの王道パターンです。

導入時の注意点と失敗を防ぐポイント

注意点1:PMS連携の「対応」と「実用」は別物

会計ソフトのカタログに「PMS連携対応」と記載されていても、実際の連携レベルには大きな差があります。API連携でリアルタイムに仕訳が生成されるのか、CSVを手動で取り込むだけなのか、必ず実際のデモで確認してください。

注意点2:宿泊税の税率変更への対応

宿泊税は自治体ごとに税率が異なり、改定も頻繁に行われます。税率変更時に柔軟に設定を更新できるか、過去の取引に遡及しないかを確認しておく必要があります。

注意点3:税理士との互換性

顧問税理士が使い慣れた会計ソフトと異なるものを選ぶと、決算時のデータ受け渡しに余計な工数が発生します。移行前に必ず税理士と相談し、データ共有方法を合意しておきましょう。

注意点4:移行時のデータ引き継ぎ

既存の会計ソフトからの移行では、期首残高・固定資産台帳・減価償却データの引き継ぎが重要です。年度の途中で移行する場合は、期首から移行日までの仕訳データも移行先に取り込む必要があります。移行は事業年度の期首に合わせるのが最もスムーズです。

よくある質問(FAQ)

Q1. 会計ソフトの移行にかかる期間はどのくらいですか?

並行運用期間を含めて6〜8週間が目安です。既存の会計ソフトと新システムを最低2週間は並行運用し、月次決算の数値一致を確認してから本番移行するのが安全です。年度の途中でも移行は可能ですが、期首に合わせると期首残高の設定がシンプルになります。

Q2. 小規模旅館でもクラウド会計ソフトは必要ですか?

客室数10室以下の小規模旅館でも、クラウド会計ソフトの導入をお勧めします。月額1,330円からのプランでもインボイス対応・銀行口座自動取込・確定申告書類の自動生成が使え、年間の経理工数を100〜200時間削減できます。特にインボイス制度対応は法的義務であり、手作業での対応は現実的ではありません。

Q3. PMSとの連携は必ず必要ですか?

30室以上の施設では必須と考えてください。月間の仕訳件数が500件を超えると、手入力では処理速度・正確性の両面で限界が来ます。30室未満の施設でも、OTA手数料の自動仕訳だけでも月5〜10時間の削減効果があり、PMS連携の価値は十分にあります。

Q4. 宿泊税・入湯税の仕訳は汎用会計ソフトで対応できますか?

対応は可能ですが、初期設定に手間がかかります。freeeやマネーフォワードではカスタム税区分として宿泊税・入湯税を手動で追加設定する必要があります。自治体が複数にまたがる施設(チェーン展開等)では、業界特化型の会計ソフトの方が運用負荷が低くなります。

Q5. 会計ソフトの導入に使える補助金はありますか?

IT導入補助金(デジタル化基盤導入枠)が活用可能です。クラウド会計ソフトの利用料(最大2年分)が補助対象となり、補助率は1/2〜3/4、上限額は350万円です。導入費用の自己負担を大幅に圧縮できるため、申請を強くお勧めします。

まとめ:会計ソフト選定は「PMS連携」を起点に考える

ホテル・旅館の会計ソフト選定で最も重要なのは、自社のPMSとどの程度連携できるかという点です。どれほど高機能な会計ソフトでも、PMSからのデータが手入力のままでは、経理業務の本質的な改善は実現しません。

選定のフローをまとめると、以下の3ステップです。

  1. まず自社のPMSとの連携可否を確認——API連携が可能な製品を優先
  2. 次に宿泊税・入湯税・OTA手数料の自動仕訳に対応しているかを確認——業界特有の要件を満たすか
  3. 最後に規模・予算・税理士との互換性で絞り込む——コストと運用負荷のバランス

実績として、会計ソフトのクラウド移行とPMS連携の設定だけで、月次決算の所要日数が5営業日以上短縮された事例を複数見てきました。月次決算が早まれば、RevPARやADRの改善施策を月初から実行に移せます。経理DXは、単なるコスト削減ではなく、経営判断のスピードを上げるための投資です。

まずは現在の月次決算の所要日数と手入力の仕訳件数を数えるところから始めてみてください。その数字が、会計ソフト選定の最も確かな判断材料になります。