平日の空室を埋めると、なぜ週末のADRまで下がるのか

毎朝5時半に起きて、6時半まで競合5社の料金をチェックしています。半分は趣味ですが、そこで繰り返し目にするのが「平日を埋めようとして、週末まで安くなっているホテル」です。日〜木の稼働が伸びないので全日のBAR(ベースレート)を下げる。すると、何もしなくても満室になっていた金曜・土曜まで単価が下がる。数字で見ると、このパターンは稼働率がわずかに上がってもRevPARが下がることがほとんどです。

本記事のテーマは「平日の空室を埋めること」と「週末ADRを守ること」を両立させる料金設計です。繁閑差全体の平準化はホテル稼働率を上げる8施策(繁閑差の平準化)で整理しました。今回は曜日に絞り、BAR・最小滞在日数・早割/直前割・パッケージ・チャネル在庫の5つのレバーを、そのまま使える7手順のTODOにまとめます。

試算:全日値下げと「平日だけの施策」でRevPARはどう変わるか

まず、80室のビジネスホテルを想定した試算モデルで比べます(数値は説明用のモデルで、特定施設の実績ではありません)。平日は日〜木の5泊、週末は金・土の2泊とします。

シナリオ平日OCC / ADR週末OCC / ADR週間客室売上現状比
現状58% / 8,000円92% / 12,000円約362万円—
A:全日BARを10%下げる62% / 7,200円93% / 10,800円約339万円−6.3%
B:平日だけフェンス付き施策68% / 7,700円92% / 12,300円約390万円+7.8%

シナリオAは平日の稼働が4pt上がっても、もともと埋まっていた週末で1,200円の値引きを全室に配ってしまうため、週間で約23万円の減収です。シナリオBは平日ADRを300円だけ譲り、その代わり稼働を10pt上げ、週末は最小滞在日数と在庫配分でADRを少し引き上げています。現状比で週あたり約28万円(月に直すと約120万円)の増収、全日値下げのシナリオAとの差は週あたり約51万円です。

ポイントは、平日の値引きを「条件付き(フェンス付き)」でしか出さないことです。フェンスとは「早期予約」「連泊」「平日チェックイン」「パッケージ購入」のように、割引を受けるための条件を指します。条件がない値下げは週末の客にも届き、条件のある値下げは平日の客にだけ届きます。

手順1:曜日別×リードタイム別にデータを並べる

まずダッシュボードを開いて、過去12ヶ月の実績を「曜日別」と「予約リードタイム別」に分けて見ます。月次の平均稼働率だけでは、平日の穴がどこにあるかは見えません。

  • ☐ 曜日別のOCC・ADR・RevPARを12ヶ月分出す(PMSの日別実績をスプレッドシートに落とすだけで十分)
  • ☐ 平日のうち一番弱い曜日を特定する(日曜泊と月曜泊が弱い施設が多い)
  • ☐ 平日の予約が入るタイミングを、30日前以上/8〜29日前/7日前以内の3区分で集計する
  • ☐ 平日の予約をセグメント別(個人観光・出張・法人契約・団体)に分ける
  • ☐ 週末の「満室になった日付」と「満室になった時点のリードタイム」を記録する

最後の項目が重要です。週末が30日前に満室になっているなら、それは安く売りすぎているサインです。週末ADRを上げる余地がそこに残っています。KPIの計算式や見方はホテルKPI完全ガイドにまとめています。

手順2:BARを「平日」と「週末」で別の価格帯に分ける

平日と週末で同じBARを上下させている施設は、まず価格帯(レンジ)を曜日で分けます。下限と上限を曜日ごとに決めておけば、平日の調整が週末に波及しません。

曜日区分BAR下限BAR上限調整の考え方
日・月(最弱)6,800円9,500円需要に応じて下限まで動かす
火〜木7,500円11,000円イベント・出張需要で上げる
金10,000円15,000円下限を割らない
土・祝前日11,500円18,000円下限を割らない・ペースで上げる
  • ☐ 曜日区分ごとにBARの下限・上限を設定し、社内ルールとして文書化する
  • ☐ 週末の下限は「去年の同曜日の実績ADR」を下回らない水準にする
  • ☐ 競合5社の曜日別料金を4週間記録し、自社の位置(Price Index)を確認する

ダイナミックプライシングツールを使っている施設も、曜日別の下限設定は人が決めておくべきです。ツールの比較はAI搭載ダイナミックプライシング比較7選を参考にしてください。

手順3:最小滞在日数とCTAで週末を守り、平日へ延泊させる

最小滞在日数(MinLOS)とCTA(Closed to Arrival:その日のチェックインを受け付けない設定)は、価格を動かさずに在庫の売り方を変える道具です。週末ADRを守りながら平日を埋めるには、次の組み合わせが効きます。

設定対象日狙い発動条件の目安
MinLOS 2泊土曜チェックイン土曜単泊の安売りを防ぎ、日曜泊を同時に埋める14日前時点で土曜OCC 75%超
CTA土曜(特定日のみ)金土の2泊を優先して受けるイベント日・3連休の中日
連泊割(3泊目以降)日〜木を含む連泊出張・ワーケーションの延泊を促す常時(平日のみ適用)
MinLOS解除平日すべて1泊需要を取りこぼさない常時

注意点は、制限を強くかけすぎないことです。土曜MinLOS 2泊をかけた結果、土曜に空室が残るなら制限が強すぎます。7日前を切ったら解除する、と最初からルールに入れておきます。

  • ☐ 土曜MinLOSの発動条件(何日前・稼働率何%)を数値で決める
  • ☐ 解除条件(7日前で稼働率が条件に届かなければ解除)も同時に決める
  • ☐ 日曜泊を含む連泊プランを1つ用意し、土曜MinLOSと同時に公開する

手順4:早割・直前割は「平日限定・条件付き」で設計する

早割と直前割は、使い方を間違えると週末ADRを最も早く壊します。特に直前割は「待てば安くなる」と客に学習されると、週末の予約まで直前に寄ってしまいます。ルールは次の表のとおりです。

割引対象曜日割引幅条件(フェンス)販売チャネル
早割日〜木BAR −8〜12%28日前まで・事前決済・返金不可公式サイト+主要OTA
直前割日〜木のみBAR −5〜10%3日前以降・残室20%超の日だけ公式会員・LINE限定
週末金・土割引なし——

直前割を公開OTAで出さず、会員やLINE友だち限定にしているのは、割引額を広く見せないためです。OTAの比較画面に安い価格が並ぶと、その価格が「このホテルの相場」として覚えられます。

  • ☐ 早割・直前割の対象を日〜木に限定し、金・土をカレンダーから外す
  • ☐ 直前割の発動条件(残室率)を決め、条件を満たさない日は出さない
  • ☐ 早割は返金不可にし、キャンセル率の上昇を防ぐ

手順5:平日限定パッケージで「価格を見せずに」単価を調整する

パッケージは、宿泊と別の商品をセットにして総額で売る方法です。素泊まりのBARは下げずに、セット全体で実質的なお得感を出せるので、ADRの相場を崩しません。平日の需要が見込めるのは、次のような組み合わせです。

パッケージ例主な客層原価の目安販売価格の考え方
平日ワーケーション(電源・Wi-Fi強化客室+コーヒー無料)リモートワーカー1泊300〜500円BAR+500円で連泊割を併用
夕食付き出張プラン(提携飲食店の食事券)出張者食事券2,000円BAR+2,500円
日曜泊+レイトチェックアウト14時週末旅行の延泊客清掃シフト調整のみ日曜BARのまま
平日サウナ・温浴チケット付き近隣在住のリフレッシュ層提携施設に1,000円前後BAR+1,200円

原価が小さく、受け取る側の価値が高い要素を組み合わせるのがコツです。プラン名と写真の作り方は売れる宿泊プランの作り方で詳しく解説しています。

  • ☐ 平日限定パッケージを2つまでに絞って作る(多すぎると効果検証できない)
  • ☐ パッケージの販売を日〜木に限定する
  • ☐ 4週間後にパッケージ経由の予約数とADRを確認する

手順6:チャネル別の在庫配分を曜日で変える

同じ在庫配分を全曜日に当てはめていると、平日は露出が足りず、週末は手数料の高いチャネルで売れてしまいます。曜日ごとに配分を変えるのが基本です。

チャネル平日の配分週末の配分理由
公式サイト・会員全室(共有在庫)全室(最優先)手数料が最も低い。週末は直販に寄せる
主要OTA全室(共有在庫)残室30%を切ったら一部を閉じる平日は露出、週末は手数料を抑える
法人契約契約室数を確保原則ブラックアウト平日のベース需要を作る
旅行会社・ホールセール10〜15%を割当割当なし(またはリリース早め)平日の団体・ツアー需要を拾う

平日のベース需要として一番安定するのは法人契約です。契約レートを平日限定・週末ブラックアウトで結ぶと、週末ADRには影響しません。進め方はホテル法人営業完全ガイドを参照してください。チャネルごとの在庫を曜日で切り替えるには、サイトコントローラーの設定が必要です(チャネルマネージャー比較8選)。

  • ☐ チャネル別の予約比率を曜日別に出し、OTA依存度を可視化する
  • ☐ 法人契約の週末ブラックアウトを契約書に明記する
  • ☐ 週末のOTA在庫を閉じる条件(残室率)を設定する

手順7:4週間で効果を検証し、続けるかやめるかを決める

私は施策の効果を4週間で見切ります。それ以上待つと、季節変動と施策効果の区別がつかなくなるからです。見る指標は次の5つだけです。

KPI見方継続の目安
平日RevPAR前年同曜日比+5%以上
週末ADR前年同曜日比±0%以上(下がっていない)
平日OCC前年同曜日比+3pt以上
直前割の利用比率平日予約に占める割合15%以下
週末予約のリードタイム平均日数の変化短くなっていない

週末ADRが下がっていたら、平日の割引が週末に漏れているサインです。直前割の利用比率が15%を超えたら、客が「待てば安くなる」と学習し始めています。どちらかに当てはまれば、該当する施策を止めます。

実績として、値上げ提案を3回断られた28室の老舗旅館で、土曜だけ・スタンダード客室だけを1,500円上げるテストを1ヶ月行ったことがあります。社長と一緒に日次のキャンセル率を見続けましたが、土曜のキャンセル率は変わらず、1ヶ月後のRevPARは+12%でした。社長からは「全曜日で検討したい」と言われました。週末ADRは、守るだけでなく小さく上げて試せる、というのがこのときの教訓です。値上げの進め方はホテル・旅館の値上げ方法にもまとめています。

7手順のTODOチェックリスト(まとめ)

手順やること初期費用効果が見える目安
1曜日別×リードタイム別にデータを並べる0円即日
2曜日区分ごとにBARの下限・上限を決める0円2〜4週間
3土曜MinLOS・CTAと解除条件を設定する0円2〜4週間
4早割・直前割を平日限定・条件付きにする0円4週間
5平日限定パッケージを2つ作る提携費・備品で数万円4週間
6チャネル別在庫を曜日で切り替えるサイトコントローラー利用料4〜8週間
75つのKPIで4週間ごとに継続・停止を判断する0円毎月

7手順を一度に全部やる必要はありません。手順1〜4は費用ゼロで、来週からでも始められます。大事なのは、平日の割引を必ず「条件付き」で出すことと、週末ADRを毎週確認することの2つです。平日を埋めた分だけRevPARが積み上がる料金設計に変えていきましょう。