「就業規則は作ったけど、実態と合っていない」——宿泊業の現場では、こういう状態が驚くほど多いです。常時10人以上を雇用する事業所には就業規則の作成・届出義務がありますが、問題はその中身。一般的なテンプレートをそのまま使っても、宿泊業特有の変形労働時間制や中抜けシフト、深夜勤務に対応できず、結果として「規則はあるけど実態と違う」状態に陥ります。

この記事では、ホテル・旅館・民泊の経営者やマネージャーに向けて、宿泊業に特化した就業規則の作り方を実務レベルで解説します。変形労働時間制の設計、中抜けシフトの規定方法、残業代・深夜割増の計算ルール、36協定の締結手順、そして2026年以降の勤務間インターバル義務化への対応まで、現場で使えるテンプレート付きで網羅します。

宿泊業の就業規則が「普通のテンプレート」では通用しない理由

厚生労働省がモデル就業規則を公開していますが、これはオフィスワーク中心の「9時〜18時・土日休み」を前提にしています。宿泊業では以下の4点が根本的に異なるため、そのまま流用すると実態との乖離が必ず生じます。

1. 365日営業で「所定休日」が固定できない

ホテルは年中無休が基本です。「毎週日曜を休日とする」といった規定は現実的ではなく、シフト制による変動休日の規定が必要になります。法定休日(週1日または4週4日)をどう確保するかを就業規則に明記しなければなりません。

2. 変形労働時間制を使わないと残業代が膨らむ

繁忙期(GW・お盆・年末年始・紅葉シーズン等)と閑散期の業務量の差が激しい宿泊業では、1日8時間・週40時間の法定労働時間を毎週一律に適用すると、繁忙期の残業代が過大になります。1ヶ月単位または1年単位の変形労働時間制を導入し、繁忙期に所定労働時間を長く、閑散期に短く設定することで、合法的に労働時間を調整できます。

3. 中抜けシフトの扱いが未規定になりがち

旅館の客室係や調理スタッフに多い中抜け勤務(朝の部+夕の部で中間に3〜5時間の休憩)は、一般企業にはない勤務形態です。中抜け時間を「休憩時間」として扱うのか、拘束時間としてどう管理するのかを就業規則に規定しないと、労使紛争の火種になります。

4. 深夜勤務が常態化している

フロントの夜勤、夜間警備、早朝の朝食準備など、22時〜翌5時の深夜帯に働くスタッフが常にいるのが宿泊業の特徴です。深夜割増賃金の計算ルールを就業規則で明確にしておかないと、未払い残業代請求のリスクが高まります。

就業規則に必ず盛り込むべき10項目(宿泊業版)

労働基準法第89条が定める「絶対的必要記載事項」に加え、宿泊業では以下の10項目を網羅する必要があります。

No.記載項目宿泊業での留意点根拠法令
1始業・終業時刻シフト制の場合「シフト表により定める」と記載し、シフトパターンを別表で規定労基法89条1号
2休憩時間中抜け休憩を含む場合、その時間数と付与方法を明記労基法34条
3休日「4週間を通じ4日以上」の変動休日制を採用する場合、起算日を明記労基法35条
4変形労働時間制1ヶ月単位/1年単位の適用区分、対象期間、各日・各週の所定労働時間労基法32条の2・32条の4
5時間外労働・休日労働36協定の範囲内であること、割増賃金率(25%・35%・50%・60%)を明記労基法36条・37条
6深夜勤務22:00〜5:00の深夜割増25%の適用、夜勤手当がある場合の計算方法労基法37条4項
7賃金の計算方法月給制・日給制・時給制が混在する場合の各計算式労基法89条2号
8年次有給休暇繁忙期の時季変更権の行使基準を明確化労基法39条
9安全衛生温泉設備・厨房・ボイラー等の危険箇所に関する安全規定労働安全衛生法
10勤務間インターバル11時間以上の確保(努力義務→2026年義務化予定)労働時間等設定改善法

変形労働時間制(1ヶ月単位)の設計方法

宿泊業で最も利用されているのが「1ヶ月単位の変形労働時間制」です。1ヶ月以内の期間を平均して週40時間(特例措置対象事業場は44時間)以内に収めれば、特定の日に8時間を超えて、特定の週に40時間を超えて労働させることが可能です。

設計ステップ1:対象期間と起算日を決める

一般的には「毎月1日〜末日」を対象期間とします。給与計算の締め日と合わせると管理しやすいので、「毎月16日〜翌月15日」のように給与締め日起算にする施設もあります。

設計ステップ2:月間の総労働時間の上限を計算する

1ヶ月単位の変形労働時間制における月間の総労働時間上限は、以下の計算式で求めます。

月間総労働時間の上限 = 40時間 × 対象期間の暦日数 ÷ 7

暦日数月間上限時間
28日160.0時間
29日165.7時間
30日171.4時間
31日177.1時間

この上限の範囲内で、各日・各週の所定労働時間を自由に配分できます。たとえば31日の月なら177.1時間が上限。繁忙週は1日10時間×6日=60時間、閑散週は1日6時間×4日=24時間、といった具合に傾斜配分するのが実務の基本です。

設計ステップ3:シフトパターンを類型化する

就業規則では各日の労働時間をあらかじめ特定する必要があります。とはいえ毎日バラバラに設定するのは非現実的なので、3〜5パターンの「シフト類型」を設定し、それを組み合わせるのが実務的です。

【テンプレート】宿泊業向けシフトパターン例

パターン勤務時間実働休憩主な対象
A:早番6:00〜15:008時間1時間朝食スタッフ・清掃
B:遅番14:00〜23:008時間1時間フロント・夕食スタッフ
C:夜勤22:00〜翌7:008時間1時間フロント夜勤・警備
D:中抜け6:00〜10:00/16:00〜22:0010時間中抜け6時間+休憩なし客室係・調理
E:繁忙7:00〜21:0010時間休憩2時間+中抜け2時間繁忙期全般

ポイントは、各パターンの始業・終業時刻と休憩時間を明確に規定すること。「おおよそ6時頃〜」のような曖昧な記載は労基署に指摘されます。

設計ステップ4:就業規則への記載例

【テンプレート】変形労働時間制の就業規則記載例

第○条(変形労働時間制)
1. 会社は、労働基準法第32条の2の規定に基づき、毎月1日を起算日とする1ヶ月単位の変形労働時間制を採用する。
2. 各日の始業・終業時刻および休憩時間は、別表のシフトパターン(A〜E)のとおりとし、各従業員の勤務割は毎月25日までに翌月分のシフト表で指定する。
3. 対象期間における1週間あたりの平均労働時間は40時間を超えないものとする。
4. シフト表は、対象期間開始の7日前までに従業員に周知する。

ここで重要なのが「シフト表の周知期限」です。対象期間が始まってからシフトを通知するのでは、変形労働時間制の要件を満たしません。実務上は「前月25日までに翌月シフトを確定・掲示」が安全ラインです。

中抜けシフトの規定方法

中抜け勤務は旅館の客室係や調理スタッフに多い勤務形態ですが、就業規則での扱いを曖昧にしている施設が非常に多いのが実情です。

中抜け時間は「休憩」か「非拘束」か

法的に重要なのは、中抜け時間の性質です。

  • 休憩時間として扱う場合:労働基準法第34条の要件(自由利用の原則)を満たす必要がある。つまり中抜け時間中に「待機」を命じたり、呼び出しの可能性があれば休憩時間とは認められない
  • 非拘束時間として扱う場合:労働時間には算入しないが、拘束時間としてカウントされ得る。就業規則で「中抜け時間中は完全に自由であり、業務指示は行わない」旨を明記する

【テンプレート】中抜けシフトの就業規則記載例

第○条(中抜け勤務)
1. 業務上の必要がある場合、1日の勤務を午前の部と午後の部に分割する「中抜け勤務」を命ずることがある。
2. 中抜け時間は休憩時間とし、従業員はこの時間を自由に利用することができる。会社は中抜け時間中に業務指示を行わない。
3. 中抜け勤務のシフトパターンおよび各部の始業・終業時刻は別表のとおりとする。
4. 中抜け勤務における実働時間が8時間を超える場合は、第○条(時間外労働)の規定を適用する。

現場では、中抜けの「どこにも行けない中途半端な3時間」がスタッフの大きなストレスになっています。私自身、旅館の客室係として3年間中抜け勤務を経験しましたが、最寄りのコンビニまで車で15分の立地では、中抜け中は休憩室のソファか駐車場の車の中で過ごすしかない日がほとんどでした。拘束16時間に対して実働8時間——この勤務形態の心身への負荷は、規則の文面だけでは伝わりません。だからこそ就業規則には「中抜け時間中は完全に自由」と明記し、実態としても呼び出しをしない運用を徹底することが、スタッフの信頼を守る最低ラインだと考えています。

ホテルのシフト管理あるある25選でも触れましたが、中抜けシフトの問題は就業規則の整備だけで解決するものではなく、AIシフト管理ツールの導入で中抜けなし日を増やすなど、運用面の改善とセットで取り組む必要があります。

残業代・深夜割増の正しい計算ルール

未払い残業代請求は宿泊業界で頻発する労務トラブルの一つです。変形労働時間制を採用している場合の残業計算は、通常より複雑になります。

変形労働時間制における残業の3段階判定

1ヶ月単位の変形労働時間制では、残業(時間外労働)を以下の3段階で判定します。

第1段階:日ごとの判定

  • 所定労働時間が8時間を超える日(例:繁忙日10時間)→ その所定時間を超えた分が残業
  • 所定労働時間が8時間以内の日 → 8時間を超えた分が残業

第2段階:週ごとの判定

  • 所定労働時間が40時間を超える週 → その所定時間を超えた分が残業(第1段階で算定済みの分を除く)
  • 所定労働時間が40時間以内の週 → 40時間を超えた分が残業(第1段階で算定済みの分を除く)

第3段階:対象期間全体の判定

  • 対象期間の総労働時間が法定上限(例:31日の月なら177.1時間)を超えた分が残業(第1・第2段階で算定済みの分を除く)

この3段階判定は手作業では非常にミスが起きやすく、勤怠管理システムの導入が事実上必須です。特に中抜けシフトで1日の実働が10時間を超えるケースでは、日ごとの判定だけでも複雑になります。

割増賃金率の一覧

種類割増率適用条件
時間外労働25%以上法定労働時間を超える労働
時間外労働(月60時間超)50%以上月60時間を超える時間外労働
深夜労働25%以上22:00〜翌5:00の労働
法定休日労働35%以上法定休日における労働
時間外+深夜50%以上法定時間外かつ深夜の労働
休日+深夜60%以上法定休日かつ深夜の労働

注意すべきは「月60時間超の時間外労働で50%」のルールです。2023年4月から中小企業にも適用されており、宿泊業も例外ではありません。繁忙期に特定のスタッフに残業が集中すると、月60時間のラインを超えて人件費が一気に跳ね上がります。

【計算例】中抜けシフト+深夜残業のケース

以下のケースで具体的に計算してみましょう。

条件:

  • 時給換算額:1,500円
  • 所定シフト:6:00〜10:00(4時間)/ 16:00〜22:00(6時間)= 実働10時間
  • 実際の勤務:6:00〜10:00 / 16:00〜23:30 = 実働11.5時間

計算:

  • 所定内労働(10時間):1,500円 × 10h = 15,000円
  • 時間外労働(22:00〜23:30のうち、所定10時間超の1.5時間):1,500円 × 1.25 × 1.5h = 2,813円
  • 深夜割増の加算(22:00〜23:30の1.5時間は深夜帯):1,500円 × 0.25 × 1.5h = 563円
  • 合計:18,376円

22時以降の残業は「時間外25% + 深夜25% = 50%増」になる点を見落としがちです。就業規則には割増賃金の計算方法を明記し、実際の給与計算と一致しているか毎月検証することが重要です。

36協定の締結手順と記載のポイント

法定労働時間を超えて残業させるには、36(サブロク)協定の締結と労働基準監督署への届出が必須です。就業規則に「時間外労働を命ずることがある」と書いてあっても、36協定がなければ残業自体が違法になります。

36協定の締結手順

  1. 労働者代表の選出:管理監督者以外の従業員から、投票・挙手等の民主的手続きで選出する。会社が指名するのは無効
  2. 協定内容の交渉:時間外労働の上限時間、休日労働の日数、対象期間を労使で協議する
  3. 協定書の作成:厚生労働省の様式第9号(一般)または第9号の2(特別条項付き)を使用
  4. 署名・押印:使用者と労働者代表が署名または記名押印
  5. 届出:所轄の労働基準監督署に届出。届出しないと効力が発生しない
  6. 周知:協定内容を従業員に周知(事業場への掲示、書面交付、電子データでの閲覧等)

宿泊業の36協定で注意すべき上限時間

区分上限時間備考
原則の上限月45時間・年360時間これを超える残業は原則不可
特別条項の上限月100時間未満・年720時間臨時的な特別の事情がある場合のみ
複数月平均2〜6ヶ月平均で月80時間以内休日労働を含む
特別条項の適用回数年6回まで月45時間超が許されるのは年6ヶ月まで

【テンプレート】36協定の特別条項記載例(宿泊業向け)

臨時的に限度時間を超えて労働させることができる場合:
・GW・お盆・年末年始等の繁忙期における接客業務の増加
・大規模な団体予約・宴会対応
・突発的な設備故障への対応
・感染症等の流行に伴う衛生対応業務の増加

特別条項の「臨時的な特別の事情」は具体的に記載する必要があります。「業務の都合上必要なとき」のような包括的な記載は認められません。宿泊業では上記のような季節変動・イベント対応を具体的に列挙するのが実務的です。

2026年 勤務間インターバル義務化への対応

労働基準法改正と勤務間インターバル義務化で詳しく解説していますが、2026年以降、終業から次の始業まで11時間以上のインターバルを確保することが義務化される見通しです。宿泊業にとっては「最も影響が大きい改正」と言っても過言ではありません。

インターバル規制が宿泊業に与えるインパクト

以下のような勤務パターンが「違法」になる可能性があります。

勤務パターンインターバル適法性
夜勤22:00〜翌7:00 → 同日遅番14:00〜23:007時間✕ 違反
遅番14:00〜23:00 → 翌日早番6:00〜15:007時間✕ 違反
中抜け6:00〜22:00(拘束16h) → 翌日早番6:008時間✕ 違反
早番6:00〜15:00 → 翌日早番6:00〜15:0015時間○ 適法
遅番14:00〜23:00 → 翌日遅番14:00〜23:0015時間○ 適法

特に深刻なのが「中抜けシフト後の翌日早番」です。中抜けシフトは終業が22時になることが多く、翌日の早番が6時だとインターバルは8時間。11時間を確保するには翌日の始業を9時以降にする必要があり、朝食対応に支障が出ます。

就業規則への反映方法

【テンプレート】勤務間インターバルの就業規則記載例

第○条(勤務間インターバル)
1. 会社は、従業員の終業時刻から次の始業時刻までに、原則として11時間以上の休息時間(勤務間インターバル)を確保する。
2. 災害その他避けることのできない事由またはやむを得ない業務上の必要がある場合は、前項の定めにかかわらず、勤務間インターバルを9時間まで短縮することができる。この場合、会社は代償措置として、当該短縮日から1週間以内に11時間以上のインターバルを確保する日を設ける。
3. シフト作成にあたっては、前項の勤務間インターバルを遵守する勤務割を優先する。

現場で取り組むべき実務対策

就業規則を改定するだけでは不十分で、シフト運用も根本的に見直す必要があります。

  1. 「遅番→早番」の連続を禁止する:シフトパターンの組み合わせルールを就業規則の別表で規定
  2. 中抜けシフトの翌日は遅番以降に限定:中抜けの終業22:00 → 翌日始業9:00以降
  3. 夜勤明けの翌日は休日または遅番のみ:夜勤の終業7:00 → 翌日始業18:00以降(11時間確保)
  4. 勤怠管理システムのアラート機能を活用:インターバル未達のシフトを事前に検知する設定を導入

AIスタッフスケジューリングを導入すれば、インターバル制約を組み込んだシフト自動作成が可能になります。人手でインターバルを確認しながらシフトを組むのは30名以上の施設では現実的ではなく、ここはDXの力を借りるべきポイントです。

就業規則の作成・届出の具体的手順

ここまでの内容を踏まえ、就業規則の作成から届出までの手順を整理します。

ステップ1:現状の勤務実態を洗い出す(1〜2週間)

  • 部門ごとの勤務パターン(早番・遅番・夜勤・中抜け)を一覧化
  • 実際の残業時間・深夜勤務時間を過去6ヶ月分集計
  • 繁忙期・閑散期の業務量の波を把握

ステップ2:就業規則の原案を作成する(2〜4週間)

  • 本記事のテンプレートをベースに、自社の勤務実態に合わせてカスタマイズ
  • 変形労働時間制のシフトパターン(別表)を具体的に設計
  • 中抜けシフト・深夜勤務・インターバルの規定を盛り込む
  • 36協定の内容もあわせて整理

ステップ3:社会保険労務士にリーガルチェックを依頼する

ここは費用を惜しまないでほしいポイントです。宿泊業に精通した社労士であれば、5〜15万円程度で就業規則一式のチェック・修正対応をしてくれます。自作の就業規則で労基署に是正勧告を受けたり、未払い残業代請求で数百万円の支払いを命じられるリスクを考えれば、十分にペイする投資です。

ステップ4:従業員の意見聴取(法定手続き)

  • 就業規則の原案を従業員代表に提示し、意見を聴取する
  • 意見書に従業員代表の署名・押印を得る
  • ※反対意見があっても就業規則の効力には影響しないが、現場の納得感を得る努力は重要

ステップ5:労働基準監督署への届出

  • 就業規則(本則+別表)+意見書を所轄の労基署に届出
  • 変形労働時間制の労使協定も同時に届出
  • 36協定も同時に届出(有効期間の起算日を揃えると管理しやすい)
  • 届出は電子申請(e-Gov)でも可能

ステップ6:従業員への周知

  • 事業場の見やすい場所に掲示、または書面交付、イントラネットでの閲覧
  • 新規入社時にも必ず周知する運用を確立
  • 就業規則の内容をかみ砕いた「スタッフ向けハンドブック」を別途作成するのも有効

労基署の是正勧告・未払い残業代請求を回避するチェックリスト

最後に、宿泊業で特に指摘されやすいポイントをチェックリストにまとめました。就業規則の作成・改定時に必ず確認してください。

No.チェック項目よくある違反パターン
1変形労働時間制の労使協定は届出済みか就業規則には書いたが協定の届出を忘れている
2各日の所定労働時間が事前に特定されているか「シフト表で都度決める」だけで事前特定がない
3月間総労働時間が法定上限を超えていないか繁忙月に177.1時間(31日の月)を超過している
4中抜け時間中に業務指示をしていないか中抜け中に呼び出して「休憩」が形骸化している
5深夜割増が正しく計算・支払いされているか固定の夜勤手当に深夜割増を含むとしているが不足額がある
636協定の上限時間を超えていないか特別条項の年6回を超えて月45時間超が常態化
736協定の労働者代表は適正に選出されているか会社が指名した管理職が署名している
8勤務間インターバルの努力義務に対応しているか夜勤明け→同日中抜けの連続が放置されている
9労働時間の客観的記録が保存されているか自己申告のみで客観的打刻がない
10就業規則が従業員に周知されているか金庫に保管されていて従業員が閲覧できない

特に項目1・2は変形労働時間制の根幹で、ここが不備だと「変形労働時間制自体が無効」と判断され、通常の8時間×5日で残業を再計算されるリスクがあります。再計算の結果、数百万円単位の未払い残業代が発生したケースは珍しくありません。

まとめ:就業規則は「作って終わり」ではない

宿泊業の就業規則は、変形労働時間制・中抜けシフト・深夜勤務・36協定・勤務間インターバルという5つの論点を正確に規定する必要があり、一般的なテンプレートでは対応しきれません。本記事のテンプレートとチェックリストを活用して、自社の勤務実態に即した就業規則を整備してください。

そして何より大切なのは、就業規則は「作って終わり」ではなく、実態との整合性を定期的に見直すことです。法改正(2026年のインターバル義務化等)への対応はもちろん、スタッフ数の増減・新しいシフトパターンの導入・DXツールの導入に伴う勤務形態の変化にも、就業規則は追随しなければなりません。

補助金で言うと、就業規則の改定に伴う社労士への相談費用は、働き方改革推進支援助成金(勤務間インターバル導入コース)の対象になる可能性があります。上限額は最大580万円(休息時間11時間以上の場合)。就業規則の改定だけでなく、勤怠管理システムの導入費用もあわせて申請できるため、この機会にまとめて整備することをおすすめします。

現場では「就業規則なんて誰も読まない」と言われることもありますが、だからこそ就業規則を正しく整備し、運用を実態に合わせることが、スタッフを守り、施設を守る基盤になります。法令を恐れず、まずは自社の就業規則を開いてみるところから始めてみてください。