客室管理アプリは「フロントと客室係の会話」を減らす道具

「305号室、もう入れますか?」「いま清掃中です、あと15分」「点検は誰が行きます?」——チェックイン前の13時〜15時、フロントと客室係の間ではこの会話が何十往復も続きます。私は老舗温泉旅館でフロントを2年、客室係を3年やりましたが、どちらの立場でもこの時間帯が一番しんどかった記憶があります。

フロントは「部屋割りを決めたいのに、どの部屋が使えるか分からない」。客室係は「清掃中に内線やインカムで何度も呼ばれて手が止まる」。困っている中身は違っても、原因は同じです。客室の状態(空室・清掃中・清掃済・点検済)を、全員が同じ画面で見られていないことです。

本記事では、この客室ステータスの共有に強いアプリ7製品を、公開価格・PMS連携・部屋割りへの反映・向いている規模で比較します。清掃スタッフの作業効率や品質点検を中心に比べたい方はホテル清掃管理アプリ比較8選、100室以上でクラウド型システムを選ぶ方は清掃管理システム比較7選で整理しています。今回は「フロントと客室係の連携」に絞り、国内で導入しやすい製品を中心に取り上げます。

まず決めること:客室ステータスは何段階で管理するか

製品を比べる前に、自館の客室ステータスを何段階にするかを決めてください。現場では、ここを曖昧にしたまま導入して「アプリ上は清掃済なのに、実はまだ点検していない」という事故がよく起きます。

ステータス意味更新する人フロントの判断
滞在中(連泊)お客様が宿泊中。連泊清掃の有無も表示PMSから自動販売・割当不可
チェックアウト済・未清掃退室済みで清掃待ちPMSから自動(精算時)割当は可、案内は不可
清掃中客室係が作業中客室係(スマホでタップ)到着時刻と照らして待ち時間を案内
清掃済・点検待ち清掃完了、点検前客室係原則案内不可(急ぎなら点検を依頼)
点検済(販売可)点検合格。ご案内できる点検担当(リーダー・支配人)案内可
故障・販売停止設備不良などで販売しない点検担当・設備担当割当不可、PMSで販売停止

小規模な旅館や民泊なら「清掃済=点検済」としてまとめ、5段階で回しても問題ありません。逆に、客室係と点検担当が分かれている施設では、「清掃済」と「点検済」を必ず分けてください。フロントが「清掃済」を見てお客様を案内してしまい、タオルの補充漏れが見つかる——これは導入初月にいちばん多いトラブルです。

故障・販売停止のステータスにも思い入れがあります。客室係時代、不具合を紙のメモに書いてフロントに渡しても、直ったのか、業者待ちなのか、忘れられたのかが分かりませんでした。次のお客様が入る直前に同じ不具合を見つけ、慌てて部屋を変えたことがあります。この経験から、私は導入支援で必ず「故障ステータスとPMSの販売停止を連動させられるか」を最初に確認しています。不具合の記録から修理完了までの流れはホテル設備点検アプリ比較7選で詳しく解説しました。

ホテル客室管理アプリ7製品の比較表

ここからが本題です。2026年10月時点の公開情報をもとに整理しました。多くの製品は価格を公開しておらず「要見積り」です。公開価格がある製品だけ金額を載せています。

製品(提供会社)タイプ公開価格PMS連携ステータス共有の特徴向いている規模
Jtas(Edeyans)清掃管理専用・国産要見積りAPI双方向・CSV。NEC「NEHOPS」とリアルタイム連携清掃指示書の自動作成、故障部屋・忘れ物管理、インジケーター50〜500室のシティ・ビジネスホテル
WASIMIL 清掃管理アプリ(AZOO)PMS一体型要見積り(アプリは無料DL)WASIMIL PMSとリアルタイム連携チェックアウト客室を自動割当、優先タグ、日英2言語10〜100室の旅館・ホテル
Staysee 清掃アプリ(ステイシー)PMS一体型(小規模向け)月980円〜9,980円の3プラン、初期0円(掲載情報)Staysee本体と連携完了・待ち・可能・清掃中・連泊中・チェックの6段階民泊・ゲストハウス・〜30室
aipass(aipass)PMS一体型要見積りaipass PMS本体。スマートロック・POS連携客室アサインの自動化とセルフチェックインを一体で運用少人数運営のホテル・旅館
Room Tag(タップ)PMS付属アプリ要見積りタップのホテルシステム導入施設向けiPadで客室サービス・清掃状況を管理、点検シートのデジタル化タップ製PMS利用のホテル
PREVAIL 清掃管理(キヤノンITソリューションズ)PMS付属システム要見積りホテルシステム「PREVAIL」と連動進捗の色分け・グラフ表示、客室ごとのメッセージPREVAIL利用の中〜大規模ホテル
kintone+自作アプリ(サイボウズ)汎用ノーコードスタンダード1ユーザー月1,800円(最低10ユーザー)原則なし(CSV取込・連携サービスで対応)ステータス項目を自由に設計できるPMS連携不要の小規模施設、複数業態の運営会社

※価格・連携範囲は各社サイト・比較サイト・報道発表の掲載情報です。契約前に必ず最新の見積りで確認してください。

製品別の見どころ(フロント目線)

  • Jtas:清掃指示書の自動作成から故障部屋・忘れ物の管理まで、客室係の帳票をまとめてデジタル化できます。NEHOPSとの連携では、ルームチェンジやアーリーイン・レイトアウトのフラグも清掃側に届くようになりました。フロントの変更がそのまま清掃指示に反映されるのが強みです。
  • WASIMIL:PMSのチェックアウト情報から清掃対象の客室を自動で割り当て、急ぎの部屋には優先タグを付けられます。日英2言語なので、外国人スタッフがいる旅館でも使いやすい設計です。
  • Staysee:月額の公開価格がある数少ない製品です。6段階のステータスに「連泊中」が含まれているため、連泊清掃の有無をフロントと共有しやすいです。
  • aipass:客室アサインとセルフチェックイン、スマートロックを一体で持つため、夜間に少人数で運営する施設と相性が良い製品です。
  • Room Tag/PREVAIL:PMSメーカー自身の付属アプリ・システムです。利用中のPMSがタップ製・PREVAILなら、最初に見積りを取るべき候補です。
  • kintone:ステータスの段階や報告項目を自館に合わせて作れます。反面、PMSとの自動連携は別途の仕組みが必要で、作った人が辞めると保守が止まるリスクがあります。

タイプ別の選び方|決め手は「今のPMS」

実際に手を動かして7製品を並べると、選び方はシンプルです。今使っているPMSを変えるかどうかで、候補はほぼ決まります。

PMSを変えない場合:付属アプリか、連携できる専用アプリ

タップやPREVAILなど、すでにPMSを使っているなら、まずそのPMSの付属アプリを確認してください。PMSと同じデータベースで動くので、精算した瞬間に「チェックアウト済・未清掃」に変わり、点検済にすると販売可になります。二重入力がゼロというのは、現場にとって最大の価値です。

付属アプリが弱い、または存在しない場合は、Jtasのように複数のPMSとAPI連携できる清掃管理専用アプリが候補になります。ここで確認すべきなのは「連携のタイミング」です。1日1回のCSV連携だと、日中の部屋割り変更やアーリーチェックインに追いつきません。NEHOPSとJtasの連携も、2026年6月の強化で手配品・リクエストの連携が日次からリアルタイムになったと発表されています。「リアルタイムか、日次か」は見積り時に必ず質問してください。

PMSを入れ替える場合:PMS一体型でまとめて解決

PMSが古い、あるいは紙と表計算で予約を管理している施設なら、PMS一体型(WASIMIL、Staysee、aipass)を検討します。予約・部屋割り・清掃・チェックインが1つの画面にそろうので、連携の不具合で悩むことがありません。PMS自体の比較はホテルPMS比較10選を参考にしてください。

特に、深夜はフロントを置かずセルフチェックインで運営する施設では、「点検済の部屋だけを自動でアサインし、スマートロックの暗証番号を発行する」流れが組めるかが重要です。aipassのようにチェックイン・鍵・客室アサインを一体で持つ製品はこの点が強みです。セルフチェックイン機とスマートロックの比較はセルフチェックイン比較10選とスマートロック比較10選にまとめています。

PMS連携がいらない場合:汎用ツールで始める

8室の民泊や、清掃を外部業者に任せている一棟貸しなど、フロントと客室係が同じ建物にいない施設もあります。この場合、PMS連携より「清掃業者がスマホで完了報告できるか」が重要です。kintoneのような汎用ツールなら、ステータスや写真報告を自由に作れます。ただし、最低10ユーザー分(月18,000円〜)の契約になるため、2〜3人で回す施設では割高になることがあります。Stayseeの低価格プランと比べてから決めてください。

規模別の費用目安と選び方

多くの製品が要見積りなので、私が導入支援で見てきた見積りの傾向から、規模別の目安をまとめます。あくまで仮置きの数字です。正式な比較は、各社から「初期費用+月額×24か月」の総額で見積りをそろえてください。

規模おすすめのタイプ月額の目安初期費用の目安重視するポイント
民泊・〜10室小規模向けPMS一体型/汎用ツール0.1万〜2万円0〜5万円外部清掃業者がスマホで報告できるか
11〜30室の旅館・ホテルPMS一体型1万〜5万円5万〜30万円部屋割りと清掃状況が同じ画面で見えるか
31〜100室PMS付属アプリ/連携型専用アプリ3万〜10万円20万〜80万円点検済の分離、リアルタイム連携
101室〜・複数館連携型専用アプリ/PMS付属システム10万円〜(客室数課金)50万円〜複数フロアの進捗表示、多言語、清掃費の自動集計

費用対効果の考え方も示しておきます。30室の旅館で、フロントと客室係の確認連絡が1日40回、1回あたり双方合わせて2分かかっているとします。1日80分、月30日で約40時間です。時給1,300円で換算すると月約5.2万円分の時間が「確認の会話」に使われている計算です。アプリでこの半分が減れば、月額3万円の製品でも十分に元が取れます。浮いた時間は、お客様のお出迎えや清掃品質の確認に回せます。

導入の6手順|フロントと客室係の両方に定着させる

現場では、アプリ選びより導入の進め方で成否が分かれます。私が支援先で使っている手順をそのまま載せます。

  1. 1日の連絡を数える(1週間):フロントと客室係の内線・インカム・口頭連絡を「正」の字で記録します。何の確認が多いかが分かると、必要なステータスが決まります。導入後の効果測定にも使えます。
  2. ステータスと更新者を決める:前述の表をもとに、何段階にするか、誰がどのタイミングでタップするかを1枚の紙にまとめます。「点検済」にできる人を限定するのがポイントです。
  3. PMS連携の範囲を確認する:精算時に自動で未清掃になるか、点検済で販売可になるか、故障で販売停止になるか。この3点をデモで実際に操作して確かめます。
  4. 1フロアだけで2週間試す:全館一斉に切り替えると、混乱した日に紙へ戻ってしまいます。1フロアで並行運用し、ホワイトボードとアプリの差がなくなってから広げます。
  5. 端末と文字サイズを整える:客室係のスマホは、ベテランの方が老眼鏡なしで読める文字サイズに設定します。共用端末を使うなら、リネン庫など毎回必ず通る場所に充電台を置きます。
  6. 1か月後に連絡回数を数え直す:手順1と同じ方法で数え、減っていなければステータスの定義か更新タイミングを見直します。

手順5の文字サイズは、セルフチェックイン導入で失敗した経験から来ています。深夜に到着した高齢のご夫婦が画面操作で詰まり、翌朝強いお叱りを受けました。それ以来、画面の文字サイズは「その画面を使う最年長の人」を基準に決めています。お客様向けでもスタッフ向けでも同じです。客室係には60代・70代のベテランが多い施設も珍しくありません。

補助金で導入費用を1/2に圧縮する

補助金で言うと、客室管理アプリやPMSは「デジタル化・AI導入補助金2026」(旧IT導入補助金)の対象になり得ます。事務局に登録されたITツールであることが条件で、通常枠の補助率は原則1/2です。クラウドの利用料も一定期間分が対象になるため、月額型のアプリでも活用できます。

注意点は2つです。1つ目は、検討している製品がITツールとして登録されているかを最初に販売店へ確認すること。2つ目は、交付決定前に契約・支払いをすると対象外になることです。申請の流れはデジタル化・AI導入補助金2026の申請7ステップで解説しています。kintoneなどの汎用ツールも、登録販売店経由なら対象になる場合があります。

私の判断基準は「現場の負荷が下がるか」「法令に合っているか」「補助金で費用を1/2以下にできるか」の3つです。客室管理アプリは3つ目を満たしやすいので、見積りを取る段階で補助金の対象かどうかも一緒に聞いておくと、比較がぐっと楽になります。

まとめ|「あの部屋まだ?」がなくなるのが導入成功の合図

  • 客室管理アプリの役割は、フロントと客室係が同じ客室ステータスを見られるようにすること
  • 点検担当がいる施設では「清掃済」と「点検済」を分け、故障はPMSの販売停止と連動させる
  • 候補は今のPMSで決まる。変えないなら付属アプリか連携型専用アプリ、入れ替えるならPMS一体型
  • 連携は「リアルタイムか日次か」を必ず確認。費用は24か月総額でそろえて比べる
  • 1フロアで2週間試し、導入前後の連絡回数で効果を測る。補助金で費用は1/2に圧縮できる

月に何度か実際にホテルへ泊まって運用を見ていますが、うまく回っている施設ほど、チェックイン前のフロントが静かです。インカムの「あの部屋まだ?」が聞こえなくなったら、導入は成功です。まずは1週間、連絡の回数を数えるところから始めてみてください。