はじめに:2026年10月、インボイス制度の「第二波」が来る
「インボイス制度は2023年に対応したから、もう大丈夫でしょう?」——こうした声を、ホテルや旅館の経理担当者からよく聞きます。しかし、それは大きな誤解です。
2023年10月にインボイス制度(適格請求書等保存方式)が始まった際、免税事業者からの仕入れでも80%の仕入税額控除が認められる経過措置が設けられました。この経過措置があったからこそ、多くの宿泊施設は「とりあえず今まで通り」で乗り切ることができました。
ところが2026年10月から、この控除率が80%→50%に引き下げられます。さらに2029年10月には経過措置自体が終了し、控除率はゼロになります。つまり、免税事業者との取引で発生する消費税は、宿泊施設側が全額自腹で負担することになるのです。
加えて、2023年の制度開始時に免税事業者が課税事業者に転換する際に使えた「2割特例」(納税額を売上税額の2割に抑える措置)も、2026年9月の課税期間をもって終了します。2割特例を使っていた施設は、2026年10月以降に納税額が一気に増加する可能性があります。
現場では「経過措置の縮小って具体的にいくら影響があるの?」「免税事業者の清掃業者にはどう話せばいい?」「OTA経由の予約でインボイスはどうなるの?」といった疑問が噴出しています。本記事では、ホテル・旅館の経理担当者が2026年10月までに着手すべき実務を5項目に整理し、具体的な金額シミュレーションとともに解説します。
そもそもインボイス制度とは?——宿泊業に効く3つのポイント
制度の基本構造
インボイス制度の正式名称は「適格請求書等保存方式」です。2023年10月から導入され、消費税の仕入税額控除を受けるために、取引先が発行する「適格請求書(インボイス)」の保存が必要になりました。
宿泊業界においてこの制度が効くポイントは、大きく3つあります。
- 仕入側の影響:免税事業者(登録番号のない事業者)からの仕入れは、仕入税額控除ができなくなる → 清掃業者・リネン業者・フリーランスの写真家など、免税事業者との取引コストが実質的に増加する
- 売上側の影響:法人ゲスト(出張・研修・MICE等)にインボイスを求められる → 適格請求書発行事業者として正しいインボイスを発行する体制が必要
- OTA経由の特殊性:OTAを介した予約では、宿泊施設・OTA・ゲストの三者間でインボイスの発行・受領関係が複雑になる
経過措置のスケジュール
免税事業者からの仕入れに対する経過措置は、以下のスケジュールで段階的に縮小されます。
| 期間 | 仕入税額控除の割合 | 施設側の実質負担 |
|---|---|---|
| 2023年10月〜2026年9月 | 80% | 消費税額の20%を負担 |
| 2026年10月〜2029年9月 | 50% | 消費税額の50%を負担 |
| 2029年10月〜 | 0% | 消費税額の100%を負担 |
たとえば、免税事業者である清掃業者に月額55万円(税込)を支払っている場合、消費税相当額は5万円です。2026年9月までは80%(4万円)の控除が可能ですが、2026年10月以降は50%(2.5万円)しか控除できません。差額の1.5万円×12ヶ月=年間18万円が新たなコスト増となります。
対応項目①:免税事業者との取引を総点検する
洗い出すべき取引先リスト
まず最初にやるべきは、自施設と取引のある免税事業者をすべてリストアップすることです。宿泊業で特に影響が大きい取引先は以下の通りです。
| 取引先カテゴリ | 具体例 | 年間取引額の目安 | 影響度 |
|---|---|---|---|
| 清掃業者 | 客室清掃の外注先、定期清掃業者 | 200万〜800万円 | 大 |
| リネンサプライ | シーツ・タオル等のリース・クリーニング | 100万〜500万円 | 大 |
| 食材仕入先 | 地元農家、個人の鮮魚店・精肉店 | 300万〜2,000万円 | 大 |
| 修繕・メンテナンス | 個人の大工、設備修理業者 | 50万〜300万円 | 中 |
| フリーランス | カメラマン、デザイナー、ライター | 30万〜100万円 | 小 |
| 送迎・配送 | 個人タクシー、地元の配送業者 | 30万〜100万円 | 小 |
取引先への確認と交渉の進め方
リストアップした取引先に対して、以下の3ステップで対応を進めます。
ステップ1:登録状況の確認
取引先に適格請求書発行事業者の登録番号(T+13桁の数字)を確認します。登録済みであれば、請求書にその番号が記載されているか確認してください。国税庁の「適格請求書発行事業者公表サイト」で登録番号の有効性を検証できます。
ステップ2:未登録の場合の選択肢を整理
取引先が免税事業者で登録していない場合、選択肢は以下の4つです。
- 取引先に登録を依頼する:ただし、登録は取引先の経営判断であり、強制はできない。売上1,000万円以下の事業者にとって、課税事業者への転換は消費税の新たな納税義務を意味する
- 取引価格の見直しを交渉する:仕入税額控除ができなくなる分を考慮した価格交渉。ただし、下請法や独占禁止法に抵触しないよう注意が必要
- 登録済みの事業者に切り替える:品質やサービスが同等の登録事業者が見つかる場合
- 現状維持で控除減額を受け入れる:取引先との関係性や品質を優先し、コスト増を受け入れる
ステップ3:下請法・独禁法への注意
ここで最も注意すべきは、免税事業者との取引条件の一方的な変更です。公正取引委員会は、インボイス制度を理由とした以下の行為を問題としています。
- 免税事業者に対して、課税事業者にならなければ取引を打ち切ると一方的に通告すること
- 仕入税額控除ができない分を、免税事業者への支払額から一方的に差し引くこと
- 免税事業者であることを理由に、著しく低い対価で取引を強要すること
現場では「長年お世話になっている地元の清掃業者さんに、いきなり値下げ交渉なんてできない」という声をよく聞きます。実際に手を動かすと、取引先との関係性を壊さずにインボイス対応を進めるのは簡単ではありません。まずは事実の共有から始めてください。「制度の変更でこういう影響がある」と説明したうえで、双方にとって納得できる着地点を探る姿勢が大切です。
コスト影響のシミュレーション
免税事業者との取引がどれだけのコスト増になるか、客室22室の温泉旅館を例にシミュレーションしてみます。
| 取引先 | 年間取引額(税込) | 消費税相当額 | 〜2026年9月 控除額(80%) | 2026年10月〜 控除額(50%) | 年間コスト増 |
|---|---|---|---|---|---|
| 清掃業者A(免税) | 440万円 | 40万円 | 32万円 | 20万円 | +12万円 |
| 食材仕入先B(免税) | 330万円 | 30万円 | 24万円 | 15万円 | +9万円 |
| 修繕業者C(免税) | 110万円 | 10万円 | 8万円 | 5万円 | +3万円 |
| 合計 | 880万円 | 80万円 | 64万円 | 40万円 | +24万円 |
この例では、経過措置の縮小だけで年間24万円のコスト増が発生します。2029年10月に経過措置が完全終了すると、年間80万円が控除不能になり、コスト増は年間64万円に拡大します。これは決して小さくない金額です。
以前、関西圏の温泉旅館(22室)でサイトコントローラー導入を支援したとき、ダブルブッキング対応に月40分×3件=2時間、料金変更に月10時間かかっていた工数を削減できました。そのとき女将から「もうExcelの在庫表には戻れない」と言っていただきましたが、経理業務も同じで、インボイス対応を手作業で回し続けるのは限界があります。取引先の登録状況管理、請求書の確認、経過措置の適用判定——これらをシステムで仕組み化しないと、経理担当者の負荷は一方的に増えるばかりです。
対応項目②:OTA経由予約のインボイス対応を整理する
OTA予約における三者関係
OTA(楽天トラベル、じゃらん、Booking.com、Expedia等)経由の予約では、インボイスの発行・受領関係が複雑になります。まず、三者の関係を整理します。
| 取引の流れ | インボイスの発行者 | インボイスの受領者 |
|---|---|---|
| ゲスト → 宿泊施設(宿泊サービス) | 宿泊施設 | ゲスト(法人の場合) |
| OTA → 宿泊施設(仲介手数料) | OTA | 宿泊施設 |
| ゲスト → OTA(OTA手数料 ※一部OTA) | OTA | ゲスト |
宿泊施設が発行すべきインボイス
法人ゲスト(出張・研修・MICE等)から領収書の発行を求められた場合、宿泊施設は適格請求書の要件を満たした領収書を発行する必要があります。記載すべき事項は以下の通りです。
- 適格請求書発行事業者の氏名・名称+登録番号(T+13桁)
- 取引年月日(チェックイン〜チェックアウトの宿泊日)
- 取引内容(宿泊料金、食事代等の内訳)
- 税率ごとに区分した対価の合計額(標準税率10%の対象と軽減税率8%の対象を分離)
- 税率ごとの消費税額
- 書類の交付を受ける者の氏名・名称(ゲスト名 or 法人名)
ここで注意すべきは、宿泊税の取扱いです。宿泊税は消費税の課税対象外(不課税取引)であるため、インボイスの消費税計算には含めません。領収書上で宿泊税を明確に分離して記載する必要があります。
具体的な記載例を示します。
| 項目 | 金額 | 税区分 |
|---|---|---|
| 宿泊料金(2泊) | 30,000円 | 10%対象 |
| 夕食(2回) | 10,000円 | 10%対象(※外食扱い) |
| ルームサービス(飲料) | 1,500円 | 8%対象(※テイクアウト扱いの場合) |
| 消費税(10%対象) | 4,000円 | — |
| 消費税(8%対象) | 120円 | — |
| 宿泊税 | 400円 | 不課税 |
| 合計 | 46,020円 | — |
宿泊税の計算方法や自治体ごとの税率については、宿泊税2026年|ホテルの徴収・申告実務マニュアルで詳しく解説していますので、併せてご確認ください。
OTAから受領すべきインボイス
宿泊施設がOTAに支払う仲介手数料は、課税仕入れとして仕入税額控除の対象になります。この控除を受けるためには、OTAから適格請求書を受領・保存する必要があります。
主要OTAの対応状況は以下の通りです。
| OTA | インボイス対応 | 確認方法 |
|---|---|---|
| 楽天トラベル | 管理画面からインボイスをダウンロード可能 | 「請求書・明細」メニューから適格請求書を取得 |
| じゃらんnet | 管理画面からインボイスをダウンロード可能 | 宿泊施設向け管理画面の請求書セクション |
| Booking.com | 毎月の請求書がインボイス形式で発行 | Extranetの「ファイナンス」→「請求書」から取得 |
| Expedia | Partner Centralからインボイスを取得可能 | 「ファイナンス」セクションから月次請求書を確認 |
注意点として、OTAのインボイスは毎月確実にダウンロードして保存することを習慣化してください。電子帳簿保存法の要件に従い、電子データのまま保存する場合は検索要件やタイムスタンプ要件を満たす必要があります。
会計ソフトとの連携による請求書管理の自動化については、ホテル会計ソフト比較8選|PMS連携・インボイス対応ガイドで各ソフトの機能を比較していますので、参考にしてください。
対応項目③:宿泊税と消費税の正しい区分計算をマスターする
なぜ区分計算が重要なのか
インボイス制度のもとでは、領収書(適格請求書)に税率ごとの消費税額を正確に記載する必要があります。ここで問題になるのが、宿泊料金に付随するさまざまな税金・料金の区分です。
宿泊施設のゲストが支払う金額には、以下の要素が含まれる可能性があります。
- 宿泊料金:消費税10%の課税対象
- 食事代(レストラン・宴会):消費税10%の課税対象
- 食事代(ルームサービス・テイクアウト):消費税8%の課税対象(軽減税率)※提供形態による
- 宿泊税:消費税の課税対象外(不課税)
- 入湯税:消費税の課税対象外(不課税)
- サービス料:消費税10%の課税対象
これらを正しく区分しないと、消費税額の計算が狂い、インボイスとしての要件を満たさなくなります。特に宿泊税と入湯税は消費税の課税対象外であるため、消費税の計算基礎から必ず除外してください。
具体的な計算例
京都市内の旅館で1泊2食付き(税込総額50,000円)の場合を例にします。
| 項目 | 税抜金額 | 税率 | 消費税額 |
|---|---|---|---|
| 宿泊料金 | 28,000円 | 10% | 2,800円 |
| 夕食+朝食 | 14,000円 | 10% | 1,400円 |
| サービス料(10%) | 4,200円 | 10% | 420円 |
| 小計(税込) | 50,820円 | ||
| 宿泊税(京都市) | 500円(不課税・2万円以上5万円未満) | ||
| 入湯税 | 150円(不課税) | ||
| ゲスト支払総額 | 51,470円 | ||
この場合、インボイスに記載すべき消費税額は4,620円(10%対象のみ)であり、宿泊税500円と入湯税150円は消費税の計算に一切含めません。
PMSでの設定確認ポイント
現場では、PMSの設定次第で宿泊税が消費税の計算基礎に含まれてしまうケースがあります。以下のチェックリストで自施設のPMS設定を確認してください。
- □ 宿泊税が「不課税」として設定されているか(「非課税」ではなく「不課税」)
- □ 入湯税が「不課税」として設定されているか
- □ 領収書の消費税計算に宿泊税・入湯税が含まれていないか
- □ インボイス形式の領収書に登録番号が正しく印字されるか
- □ 税率ごと(10%・8%)の区分が正しく表示されるか
テスト印刷を行い、実際の領収書で上記項目をすべて確認することを強くおすすめします。
対応項目④:2割特例終了後の納税負担をシミュレーションする
2割特例とは
「2割特例」は、インボイス制度を機に免税事業者から課税事業者に転換した事業者(いわゆる「インボイス登録事業者」)が、消費税の納税額を売上にかかる消費税額の2割に抑えられる特例措置です。
適用期間は2023年10月〜2026年9月の課税期間まで。つまり、個人事業主の場合は2026年分の確定申告が最後となります。法人は2026年9月30日以前に開始する課税期間が最後です。
この特例は、小規模な旅館や民泊オーナーにとって特に大きなメリットがありました。たとえば、年間売上800万円(税抜)の小規模旅館の場合:
| 計算方式 | 計算方法 | 納税額 |
|---|---|---|
| 2割特例 | 売上消費税80万円 × 20% | 16万円 |
| 本則課税 | 売上消費税80万円 − 仕入税額控除40万円(仮) | 40万円 |
| 簡易課税 | 売上消費税80万円 × (1−50%) | 40万円 |
2割特例を使えば納税額は16万円で済んでいたのが、特例終了後は本則課税なら40万円、簡易課税でも40万円と、納税額が2.5倍に跳ね上がる可能性があるのです。
特例終了後の3つの選択肢
2割特例が終了した後、事業者には以下の3つの選択肢があります。
選択肢1:本則課税
- 実際の仕入れにかかった消費税を積み上げて控除する方式
- メリット:設備投資やリノベーションが多い年は控除額が大きくなる
- デメリット:すべての仕入について、インボイスの保存・管理が必要。事務負担が大きい
選択肢2:簡易課税
- 売上にかかる消費税額に「みなし仕入率」を掛けて控除額を計算する方式
- 宿泊業の場合、第五種事業(サービス業)に該当し、みなし仕入率は50%
- メリット:仕入れのインボイス保存が不要。事務負担が大幅に軽減される
- デメリット:実際の仕入率が50%を超える場合、本則課税より不利になる
- 適用条件:基準期間(2年前)の課税売上高が5,000万円以下
選択肢3:免税事業者に戻る
- 適格請求書発行事業者の登録を取り消し、免税事業者に戻る
- メリット:消費税の納税義務がなくなる
- デメリット:法人ゲストにインボイスを発行できなくなる。BtoB取引で不利になる可能性
- 適用条件:基準期間の課税売上高が1,000万円以下
どれを選ぶべきか——判断フローチャート
2割特例終了後の計算方式を選ぶ際、以下のフローで判断してください。
- 基準期間の課税売上高が5,000万円超 → 本則課税(一択)
- 5,000万円以下で、実際の仕入率が50%以上 → 本則課税が有利
- 5,000万円以下で、実際の仕入率が50%未満 → 簡易課税が有利
- 1,000万円以下で、法人ゲスト・BtoB取引が少ない → 免税事業者に戻ることも選択肢
簡易課税を選択する場合は、適用を受けたい課税期間の初日の前日までに「消費税簡易課税制度選択届出書」を税務署に提出する必要があります。2027年1月から適用したい個人事業主は、2026年12月31日までに届出を出す必要があるため、検討は早めに始めてください。
対応項目⑤:経理の仕組み化とシステム投資を計画する
インボイス対応で経理に求められる新しい業務
インボイス制度の本格運用に伴い、宿泊施設の経理業務には以下の新しいタスクが加わっています。
| 業務 | 内容 | 頻度 |
|---|---|---|
| 受領インボイスの確認 | 取引先から受領する請求書が適格請求書の要件を満たしているか確認 | 請求書受領の都度 |
| 登録番号の有効性確認 | 国税庁の公表サイトで取引先の登録番号が有効か定期的に確認 | 四半期ごと |
| 経過措置の適用管理 | 免税事業者からの仕入れについて、経過措置の控除割合を正確に適用 | 仕訳の都度 |
| 発行インボイスの管理 | 自施設が発行したインボイスの控えを保存 | 発行の都度 |
| 消費税申告書の作成 | 税率区分・経過措置の適用を反映した申告書の作成 | 年1回 or 四半期 |
これらを手作業で管理するのは現実的ではありません。特に取引先が多い中規模以上の施設では、会計ソフトやPMSのインボイス対応機能を最大限活用することが不可欠です。
投資すべきシステムの優先順位
インボイス対応のためのシステム投資は、以下の優先順位で検討してください。
優先度1:会計ソフトのインボイス対応
freee、マネーフォワード、弥生などの主要会計ソフトはインボイス制度に対応済みです。受領インボイスのOCR取込、登録番号の自動照合、経過措置の自動計算など、インボイス関連の業務を大幅に効率化できます。まだ対応していない場合は、これが最優先の投資です。
優先度2:PMSのインボイス形式領収書出力
ゲストに発行する領収書がインボイスの要件を満たしているかを確認し、必要に応じてPMSのアップデートや設定変更を行います。登録番号の印字、税率区分の表示、宿泊税・入湯税の分離表示が正しくできているか確認してください。
優先度3:電子帳簿保存の体制構築
2024年1月から電子取引データの電子保存が完全義務化されています。OTAから受領するインボイス(PDF)やメールで届く請求書は、紙に印刷して保存するのではなく、電子データのまま検索可能な形式で保存する必要があります。クラウドストレージや電子帳簿保存対応の会計ソフトの活用を検討してください。
補助金を活用したシステム投資
補助金で言うと、IT導入補助金はインボイス対応のための会計ソフトやPMSの導入・更新に活用できる可能性があります。特に「デジタル化基盤導入枠」は、会計・受発注・決済ソフトの導入を対象としており、インボイス対応のシステム投資に適しています。
補助金の具体的な申請方法や採択のコツについては、デジタル化・AI導入補助金2026完全ガイドで詳しく解説しています。システム投資費用を最大1/2に圧縮できる可能性がありますので、必ず確認してください。
実務チェックリスト:2026年10月までにやるべきこと
ここまで解説した5つの対応項目を、時系列のチェックリストにまとめます。
即日〜1ヶ月以内
- □ 免税事業者との取引先をすべてリストアップする
- □ 各取引先の適格請求書発行事業者の登録状況を確認する
- □ 自施設のPMSで発行される領収書がインボイス要件を満たしているか確認する
- □ 2割特例を使っている場合、終了後の計算方式を検討開始する
2〜3ヶ月以内
- □ 免税事業者との取引について、コスト影響をシミュレーションする
- □ 取引先との協議を開始する(登録依頼 or 価格交渉 or 切替検討)
- □ OTAからのインボイス受領・保存フローを確立する
- □ 宿泊税・入湯税の消費税区分がPMSで正しく設定されているか確認する
3〜6ヶ月以内
- □ 簡易課税制度の選択届出書の提出を判断する(2026年12月31日期限)
- □ 会計ソフトのインボイス対応機能を確認・導入する
- □ 電子帳簿保存の体制を整備する
- □ 経理担当者・フロントスタッフへの教育を実施する
2026年10月の直前
- □ 経過措置の控除率変更(80%→50%)を会計ソフトに反映する
- □ 免税事業者との取引条件の変更が合意・実施済みか確認する
- □ テスト領収書を発行し、インボイスの要件をすべて満たしているか最終確認する
よくある質問(FAQ)
Q1. うちは年間売上1,000万円以下の小規模旅館ですが、インボイス登録は必要ですか?
売上1,000万円以下であれば免税事業者のままでいることは可能です。ただし、法人ゲスト(出張・研修等)が多い施設の場合、インボイスを発行できないと法人客が仕入税額控除を受けられなくなり、取引を敬遠される可能性があります。客層を分析し、法人利用が売上の20%以上を占める場合は登録を検討すべきです。逆に、個人旅行客がほぼ100%の施設であれば、登録しなくても実務上の影響は小さいでしょう。
Q2. OTA経由でオンライン決済された場合、インボイスは誰が発行するのですか?
宿泊サービスの提供者は宿泊施設ですので、インボイスの発行義務は宿泊施設にあります。OTAはあくまで予約の仲介者です。法人ゲストからインボイス形式の領収書を求められた場合、施設側が自施設の登録番号を記載した適格請求書を発行する必要があります。ただし、OTAが宿泊施設の代理でインボイスを発行する「媒介者交付特例」を活用しているケースもあるため、利用中のOTAの仕様を確認してください。
Q3. 簡易課税と本則課税、どちらを選ぶべきですか?
宿泊業の簡易課税はみなし仕入率50%(第五種事業)です。実際の仕入率(課税仕入÷課税売上)が50%を下回る場合は簡易課税が有利で、50%を上回る場合は本則課税が有利です。ただし、本則課税はすべての仕入についてインボイスの保存が必要なため、事務負担も考慮して判断してください。特に小規模旅館では、多少不利でも簡易課税を選択して事務負担を軽減する方が合理的なケースが多いです。
Q4. 免税事業者の清掃業者に「課税事業者になってほしい」と頼むのは違法ですか?
依頼すること自体は違法ではありません。しかし、「登録しなければ取引を打ち切る」と一方的に通告したり、登録しないことを理由に一方的に取引価格を引き下げたりする行為は、下請法や独占禁止法に抵触する可能性があります。取引先の経営判断を尊重し、制度変更の影響を双方で共有したうえで、納得のいく条件を協議する姿勢が重要です。
Q5. インボイス制度に対応した会計ソフトのおすすめは?
小規模〜中規模の宿泊施設であれば、freeeまたはマネーフォワード クラウド会計がおすすめです。どちらもインボイスの発行・受領・保存、登録番号の自動照合、経過措置の計算に対応しています。PMSとの連携機能も進化しており、宿泊料金・OTA手数料の仕訳を自動化できます。詳しくはホテル会計ソフト比較ガイドをご確認ください。
まとめ:2026年10月は「待ったなし」——今日から動き出そう
インボイス制度の経過措置縮小は、2026年10月に確実にやってきます。「まだ先の話」ではありません。取引先との交渉、PMSの設定確認、計算方式の選択——いずれも準備に数ヶ月を要する作業です。
本記事で解説した5つの対応項目を振り返ります。
- 免税事業者との取引を総点検する:コスト影響を数字で把握し、取引先と協議する
- OTA経由予約のインボイス対応を整理する:発行すべきインボイスと受領すべきインボイスを分けて管理する
- 宿泊税と消費税の正しい区分計算をマスターする:宿泊税・入湯税は不課税として必ず分離する
- 2割特例終了後の納税負担をシミュレーションする:簡易課税への切替を含め、最適な計算方式を選択する
- 経理の仕組み化とシステム投資を計画する:会計ソフト・PMSのインボイス対応を確認し、補助金を活用する
現場では「制度が難しすぎて何から手をつければいいかわからない」という声をよく聞きます。そんなときは、まず①の取引先リストアップから始めてください。自施設にどれだけの免税事業者がいて、経過措置の縮小でいくらのコスト増になるか——この数字が見えれば、残りの対応も優先順位をつけて進められます。
インボイス制度はコストの問題であると同時に、経理業務の仕組み化を進める好機でもあります。この機会に会計ソフトの導入やPMSの更新を行い、インボイス対応だけでなく経理業務全体の効率化を実現してください。補助金も積極的に活用しながら、2026年10月を万全の体制で迎えましょう。



